4.各地の新幹線問題

北海道新幹線(有害残土の処分地をめぐる混乱)

北海道新幹線は新青森駅と札幌駅を結ぶ予定で、現在新函館北斗駅までは開通し、開業しています(2016年3月)。現在工事が行われているのは新函館北斗駅~札幌駅間の211.5kmの区間です。その8割はトンネル区間です。本区間は2014年に着工し、2035年に開通予定でした。これが政府与党申し合わせで開通を5年早めることが決まり、2030年度開通することが決まり、さらに札幌市の秋元市長が2029年まで開通を早めることで札幌冬季五輪招致の目玉にしようとしています。

小樽~札幌間の札幌トンネル(26.2km)の施工前調査において、発生残土230万tの約半分にあたる115万が許容濃度を超えるヒ素を含有する要対策土壌となりました。この土壌の受け入れ先として札幌市手稲区金山(採石場跡)の民有地と同区山口、そして札幌市厚別区山本の市有地が候補となることが地元住民に知らされたのは2019年9月に計画されていた残土受け入れ調査直前の5月と7月でした。地元で反対運動が起き、現在鉄道・運輸機構と地元の話し合いは平行線を辿っています。この中札樽トンネルの工事は2019年9月に着工されました。

日経新聞・北海道新幹線の札幌延伸 30年度開業計画に黄信号

毎日新聞・新幹線延伸 「工事中断可能性も」 残土処分地いまだ決まらず

九州新幹線西九州ルート(地方自治体の地道な合意形成がないがしろに)

九州新幹線西九州ルートは既に完成している福岡-鹿児島ルートに加え福岡-長崎を新幹線で結ぶ計画です。現在武雄温泉-長崎間は着工済で2023年に開通予定です。現在紛糾しているのは武雄温泉-新鳥栖間の区間工事を巡ってです。

武雄温泉-新鳥栖間は佐賀県内の区間です。この区間は現在JRの在来線(単線)が通っています。整備新幹線法の下では新たに新幹線が整備されると、在来区間の管理運営はJRから第3セクターに移譲されることになっています。佐賀県は整備新幹線の計画にあたり、JRの在来線を廃止するのではなく、複線化し、異なる線路幅に対応できるフリーゲージ車両の導入による新幹線開通の調整を進め、環境影響評価が実施されました。

ところが2018年7月になって与党のプロジェクトチームはフル規格の新幹線整備に向けた協議を開始したいと佐賀県に申し入れました。フル規格の新幹線が建設されると、在来線は第3セクター化されることになり、佐賀県は新幹線建設費用に加え、第3セクターの運営費用を負担することになります。佐賀県の山口知事は2019年1月、フル規格による整備は受け入れなれない旨返答しました。これに対し2019年12月に国土交通省から「幅広い可能性について協議に応じてほしい」との要望が出ます。2020年3月に佐賀県は協議内容に関する確認(案)を提示して協議入りに賛同しましたが、同3月国土交通省からはこの確認(案)に多数の消込みが入った返答が届きました。議論が平行線のため、佐賀県はやむなく協議入りし、協議の場で佐賀県のスタンスを伝えていくこととしました。

この問題の背景には大阪から長崎への直通便を実現したい長崎県の国への働きかけがあります。直通便を実現するためにはフル規格の新幹線が必要です。長崎-武雄間は実際フル規格新幹線の整備が進められています。一見フリーゲージ車両の技術的な問題に見えますが、与党プロジェクトチームが政治的影響力が背景にあることは明らかでしょう。

図 佐賀県の協議入り確認(案)に対する国交省の消込み

 

 

佐賀新聞・特集九州新幹線

NHK・新幹線で暗闘長崎対佐賀

リニア中央新幹線(大井川の水量減少をどうする?)

 

リニア中央新幹線は最高設計速度505km/hの高速走行が可能な超電導磁気浮上式リニアモーターカーが東京大阪間を結ぶ計画で、2011年に整備計画が決定され、2014年に品川-名古屋間が起工されました。整備新幹線とは異なり、営業主体および建設主体は東海旅客鉄道(JR東海)です。品川-名古屋間は2027年に先行開業し、2037年には大阪まで開通する計画です。品川-名古屋間は40分、品川-大阪間は67分の所要時間で繋がれる予定です。
現在各地で工事が進んでいますが、様々な負の影響が出ています。ここではまず大井川の漏水の取り扱いをめぐる静岡県とJR東海の紛争を取り上げます。

静岡県内の工事についてJR東海は2011年9月に環境影響評価方法書、2013年年9月に環境影響評価準備書、2014年8月に最終の環境影響評価書を公告しました。現在はこれに対し知事の意見書が提出され、見解の相違について争われています。

争点となっているのは大井川の流量減少に対しての対応についてです。JR東海は2013年に発表した準備書において工事により大井川の流量が2m3/s減少する可能性について言及しました。大井川の下をトンネルで横断する工事ではトンネル内の湧水が標高の低い方に流れます。本来大井川に流れ込むはずだった水が山梨側に失われてしまう可能性に言及したものでした。これに対し静岡県は大井川は渇水時に水不足が生じる河川のため、湧水は全量を大井川に戻すよう要望しました。このやり取りは紛糾し、未だ解決していません。2020年5月にJR東海社長は静岡工区の工事準備の遅れが2027年の開通予定に遅れをもたらす可能性について言及しました。

図 大井川の流量減少をめぐる静岡県とJR東海のやりとり

静岡新聞・大井川とリニア