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トンネルの概要
美山町知井地区を縦断するルートの大半はトンネルになる予定です。山岳地域のトンネルは直径10mとされており、4~7kmおきに残土を運び出す斜坑が設けられます。斜坑付近には運び出した土を一時保管したり土壌のpHを矯正したりするための処理施設が建設されます。
図 山岳トンネルと斜坑のイメージ
鉄道運輸機構・北陸新幹線(敦賀・新大阪間)環境影響評価方法書のあらまし
流域の自然を考えるネットワーク・北海道新幹線トンネル工事現場。立岩工区(八雲町立岩)
東小浜から京都駅までの通過断面
以下に示す図は機構が公開したものではなく、通過可能性地域の標高断面を我々で推計したものです。推計には誤差があると思いますが、概要を分かりやすくするため数値で説明します。東小浜の標高は海抜12mで京都駅の標高は海抜27mです。この2点を真っすぐ繋ぐようにトンネルを掘ると相当に深くを通ることになりますが、実際はそうなりません。掘削土砂の運び出しや地下水の水圧対策などを考えると、なるべく地表に近いところを通ることになると思います(今回のトンネル工事は大深度地下なので、地表から40mの深さは最低確保しないといけません)。一方由良川と上桂川の標高は海抜290m程度です。トンネルは東小浜から由良川までが上り勾配で、その後水平に進んだ後、京都駅に向けて下り勾配になると予想されます。新幹線建設の許容勾配は15/1000、つまり1km進んで15m以内の高低差になるよう勾配設計がされます。
図 東小浜から京都駅までの標高断面(予想図)
美山川(由良川)の横断
計画では北陸新幹線は南丹市美山町の江和、田歌地区の東西約4㎞区間のどこかで美山川(由良川)を横断することになっています。2019年12月に美山町で開催された環境影響方法書説明会において新幹線が美山川をどのように横断するのか質問したところ、橋梁と地下をトンネルで横切る可能性のいずれもありうると機構は返答しました。河川はその下にトンネルを通そうとすると漏水により流量が減少する可能性があります。このような事態を避けるために橋を架けて川の上を通ることになります。
地上で美山川を横切る場合
図 敦賀付近で進む北陸新幹線工事の風景(2020年12月撮影)
騒音の恐れ
環境省が平成28年に公表した調査結果によると、営業中の北陸新幹線沿線での住宅地における騒音基準(70dB)を満たしている割合は約5割となっており、半分は基準を満たしていなかったということです。ちなみに、この騒音基準の70dB(デシベル)というのは、「かなり大きな声でないと会話ができない」というレベルになります。逆に言えば、「かなり大きな声で会話」できれば基準は満たしているということになります。
今回の北陸新幹線は設計速度が260㎞/hです。上記の走行音とは別に高速でトンネルの出入りをする際に「トンネル微気圧波」という衝撃波が発生します。ドーンという砲撃のような音が出ることから「トンネルドーン」とも呼ばれます。現在のサンダーバード程度のダイヤだとすると、朝7時台から夜9時台まで毎時上り下り各2本、つまり4回微気圧波が発生することになります。
騒音対策はどうなる?
新幹線が開業した後、都道府県が定期的に調査を行なって、基準を超えた箇所では、防音壁の拡充など、更なる対策がなされるようです。個別に家庭に防音設備を整えるための補償を行うこともあるようです。
地下で美山川を横切る場合
水漏れの問題
美山川の下にトンネルを通すとしたら、水が漏れ出すリスクが高くなります。リニア新幹線の南アルプストンネルで、静岡県知事が着工を認可しない事態になっているのは、まさにその懸念があるからでしょう。
図 トンネルが由良川や桂川の下を通る場合、漏水はポンプなしには元に戻らない
実際に、トンネル工事の影響で水が枯れたり減ったりしたというケースは、少しネットで調べただけでも数多く見つけることができます。建設中の長崎新幹線(九州新幹線西九州ルート)では、31本のトンネルの内、11箇所で水枯れが起こったという報告があります。北陸新幹線でも、現在工事中の敦賀市で、斜坑の影響で水が枯れ、農業用水や生活用水に支障をきたしたということを福井新聞が取り上げています。
静岡新聞・大井川とリニア
西日本新聞・長崎新幹線ルート建設、10トンネル周辺で減渇水
水漏れ対策
大きな河川の水がトンネル内に漏れ出した場合、トンネル内の高低差によって、低い方へと流れていってしまいます。それらの水が他地域に流れ込む前に、ポンプで元の川へ戻すことが想定されます。仮にポンプで川へ水を戻すにしても、漏水箇所流域の水量は減ったままでしょうし、流れ出た水に明確な境界はつけられないので、どこの水が戻されるのかも分からず、水質や生態系への影響は大きいと思われます。
沢や井戸など小規模な場合で、実際に起こったケースを見てみると、水枯れの対応策としては、地下水をポンプで戻すなどしているようですが、濁りが取れず、生活用水としては使えなくなったというところもあるようです。さらには、こうした対策にもランニングコストがかかるわけですが、いつまで続けてもらえるのかは定かでありません。山梨県のリニア実験線の例では、ポンプの電気代は30年後には土地所有者が支払うことになっています。福井新聞が取り上げた記事にあった敦賀市の場合でも、30年分の補償という形になることが見込まれていると報道されています。
長野県での井戸枯れの場合は個別に補償したということですが、補償内容については公表されていません。
斜坑はどこにできるのか
新幹線の斜坑(福井県)
現時点で知井地区内のどこを新幹線が通るのかは公表されていません。よって斜坑がどこにできるかも示されていません。ここに示すのは方法書の記述に基づいた推測です。以下の図において新幹線は通過可能性範囲の中央を仮に通ると仮定しています。斜坑へは車輛のアクセスが必要なので既存の道路が利用されます。知井地区を通る新幹線の延長は約12㎞ですから、4-7km間隔で斜坑を設けるとなると2箇所ほどが想定されます。橋梁で美山川を横断する場合、トンネル出口が地上にできますからそこから土砂が運び出すかもしれません。美山川の下をトンネルで横断する場合は美山川の北と南それぞれに斜坑ができるかもしれません。これらを総合すると以下の図のような場合が想定されます。美山川より北側へのアクセスは下・知見線か五波林道、南側へのアクセスは河内谷線もしくは佐々里線の可能性があります。
美山川を橋梁で横断する場合の斜坑の位置の予想
美山川をトンネルで横断する場合の斜坑の位置の予想
土砂仮置場
斜坑から運び出された土は斜坑付近に一旦保管されます。土砂は鉱物や重金属を含んでいる場合があるので、適宜検査を行い、pHの矯正などが行われてから運び出されます。土砂の保管と処理、運び出しのため、かなり広い面積が必要です。ヒ素などの重金属が出た場合は他用途での利用が困難になります。結果として斜坑付近には大量の土砂が工事後も滞留することになります。
また、斜坑ではトンネルに浸出した地下水がポンプアップされ、pH調整などを経て放流されます。
日本自然保護協会・“地中の環境改変”だけでは済まないリニア工事の実態 〜トンネル残土があちこちに山積み、大鹿村の現状を視察しました
土砂の仮置場はかなりの面積(福井県葉原工区)
残土の問題
残土の量の問題
トンネルの断面積5m×5m×3.14に延長12㎞をかけ、土の仮比重を1.9と仮定するとトンネル掘削土の量は179万トンになります。10トンダンプで約18万台分という膨大な量です。掘削残土は当該自治体(南丹市)で処理することが原則となっています。
残土の質の問題
トンネル掘削土の中には「要対策土」と呼ばれる土が含まれることがあります。これは土壌汚染対策法の基準値を超えた重金属を含んだ掘削残土の呼称です。重金属とはヒ素、セレン、鉛、カドミウムなど自然由来の毒物を指します。
元々自然界に存在している物質ですが、土から掘り起こされて空気や水と触れることで土壌や水の汚染を引き起こし、健康被害、生態系や農業への悪影響をもたらします。
国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センターが提供している「海と陸の地球科学図」を参照すると、小浜から由良川中上流域、桂川中上流域に至る地域一帯はヒ素濃度が高い地域となっています。
図 京都府北部地域のヒ素濃度(出典:産業総合研究所・海と陸の地球化学図)
要対策土は各地の新幹線建設現場で処分問題を引き起こしています。
北海道クリップ・北海道新幹線札樽トンネルの掘削土問題について
大型車輛の通行
トンネル工事ではシールド工法が使用されます。シールドマシンで岩石の掘削を進めながら後方にコンクリート壁が建造されてゆきます。知井内ではトンネルの本坑だけで179万tの土砂が出る計算となりました。この土砂を最終処分場まで運ぶのには大型ダンプが使用されます。
仮に12㎞のトンネル掘削に5年かかると仮定しましょう。トラックの総数を18万台とすると往復で36万台が知井に出入りします。年間7万2千台のトラックが年間300日程度出入りすると仮定すると1日で240台。朝9時から夕方5時までの8時間で割ると1時間に30台。2分に1台ダンプが通ることになります。
待機ダンプの停車・駐車も考えると今の道路状況では相当の混乱が生じることになるでしょう。
南丹市で土砂を処分する際の予想ルート
掘削土の最終処分
トンネル掘削土は、工事等で使用する以外の最終処分は谷を埋め立てる方法が一般的です。以下に示すのは北海道新幹線に伴う埋立のイメージ図です。このような処分をした場合、①豪雨など際の侵食と土砂流出、②過酷災害時の土砂崩れ、③埋め立て土から有害物質の浸出が懸念されます。侵食を防ぐよう表面保護をすると、豪雨時に流出が増加し、下流域の洪水リスクを高めることになります。③のような事態が発生しないよう一定期間水質モニタリングがされますが、管理が杜撰な例も少なくないようです。
北海道八雲町黒岩地区における掘削土埋立てのイメージ(鉄道運輸機構)